3. 名歌の横顔 ―古典和歌再読

   福田智子,南里一郎,竹田正幸
 文部省科学研究費補助金特定領域研究「古典学の再構築」ニューズレター第8号, pp. 84-87, 平成12年11月

【要旨】

 藤原兼輔は、平安中期の公卿であり、三十六歌仙に入る歌人である。とりわけ「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな」という歌は、『後撰集』や『大和物語』に載っており、彼の代表歌中の一首として、現代に至るまで広く知られている。ところが、この歌が、『古今集』巻第十二恋歌二の清原深養父の歌「人を思ふ心は雁にあらねども雲居にのみもなきわたるかな」を踏まえて作られている点は、これまで看過されてきた。
 この兼輔の歌が、深養父歌を下敷きにしているすると、『後撰集』の詞書に記されるような宴会の場で披露された場合、その場に集った人々は、深養父の恋歌をもとにして親心を詠み上げた機知に、まず注目したことだろう。だが、親心を率直に言い当てたこの歌は、やがて宴会という詠歌の場を離れ、『大和物語』において、入内した娘を案じて帝に献上した歌とされているように、親の子を思う情そのものに焦点が絞られ、享受されるようになるのである。